すべてはあなたのもの ― 世界はもともと誰のものでもない

4 心と宇宙の法則

1. 所有という感覚が、私たちを遠ざけているもの

たとえば、通りすがりに見かけた素敵な花畑。あるいは、旅先で出会った美しい大樹。そのどれもに「わあ、きれい」と感じる一方で、どこか心の片隅に「でも、自分のものじゃないから」という感覚がよぎることがないでしょうか。

手を伸ばせば届きそうなのに、触れてはいけないような気がする。見ていいけれど、勝手に喜んではいけないような気がする。“所有者”という概念がちらつくだけで、私たちは無意識のうちに目の前のものと距離を取ってしまうのです。

「これは誰かの土地」「これは他人が作ったもの」「これは勝手に楽しんじゃいけない」――そんなふうに、“自分のものではない”という前提があるだけで、現実をまるでガラス越しに見るような感覚になります。本当はすぐそこにあるものなのに、心だけが少し遠ざかってしまう。

それはルールやマナーの話ではなく、もっと深いところにある「感覚の癖」です。この癖が、私たちが世界をどう感じ、どう受け取るかに、思っている以上に大きな影響を与えています。

2. 自然は、もともと誰のものでもなかった

山も、川も、空も、草も、もともとは誰の所有物でもありませんでした。地球という星に自然がただ在り、人間もまたその一部として存在していた。それが本来の姿です。

けれど人間は、暮らしの中で土地を区切り、名前をつけ、誰のものかを決めるようになりました。国、県、市、私有地、公有地。すべての空間が「誰かの所有」として扱われるようになると、自然そのものも“管理されるもの”へと変わっていきました。

気がつけば、私たちはどこに行っても、そこが誰かの領域であるという前提の中で生きています。自由に歩けるはずの道にすら、無意識のうちに「ここは自分のものじゃない」という遠慮が入り込んでくるのです。

しかし本来、空は誰のものでもなく、風も、木漏れ日も、誰に属するものでもありません。所有という考え方は後から人間がつけ加えたものであって、自然はずっと前から、ただそこに在るだけなのです。

3. 「自分のものではない」と感じたときの心の制限

自分のものではないと感じるとき、私たちの心には目には見えない“制限”がかかります。たとえば、草原を見て「ここに寝転びたい」と思っても、どこかで「でも、他人の目が気になる」「ここは自分の場所じゃない」とブレーキをかけてしまうことがあります。

たとえ誰でも自由に使える空間だったとしても、気持ちの上では「他人の場におじゃましている」という感覚が抜けない。これは、現代社会に生きる私たちが身につけてしまった“所有”という前提の副作用かもしれません。本当は、目の前に現れているそのものを、心から楽しんでもいいはずなのに――。

「自分のものではない」という意識は、体験の自由を静かに狭めてしまいます。そしてその感覚は、世界との関係を“外側から眺めるもの”へと変えてしまうのです。

4. それでも、すべてはあなたの世界に現れている

たとえ誰の所有物であっても、今この瞬間、あなたの目の前にそれが現れているのなら、それはもう、あなたの世界の一部として存在しています。

誰かの土地に咲いている花々、そこで戯れる小鳥たち、管理された山道――それがどんなものであっても、「自分のものではない」という理由で、感じることを遠慮する必要はありません。

それはあなたが“所有”しているものではなくても、“体験”しているのはまぎれもなくあなた自身だからです。

人間が決めた所有の線引きは、現実においては必要かもしれません。けれど、気持ちの上では、もっと自由でいていい。目に映るすべてのものを、自分の世界の中にあるものとして味わっていいのです。

あなたが美しいと感じた風景は、あなたの感性と出会って、はじめて存在になったとも言えます。それは、勝手に奪うことでも、誰かのものを自分のものにすることでもありません。ただ、自分の世界に現れたものと静かに響き合うことです。

5. 自由な心で

現実の社会には、ルールがあります。土地には所有者がいて、無断で立ち入れば不法侵入になる。公共の場でもマナーが求められますし、物理的には「誰のものか」がはっきりしているほうが、安全や秩序が保たれるという側面もあります。

でも、だからといって心の中まで縛る必要はありません
「これは私の世界にあるものだ」と感じるのは自由です。所有する必要もないし、奪うわけでもない。ただ、そこに現れてくれたことを、ありがたく受け取ればいい。

誰かが丹精込めてつくった庭に出会ったとき、「すごいなあ」と感じる気持ちを抑えこむ必要はありません。通りすがりの風景にふと癒やされる瞬間、わざわざ遠慮する必要もありません。目の前にあるということは、今のあなたにとって、それを感じるタイミングが訪れたということです。

その体験を、ただ素直に楽しんでいい。気持ちの上では、すべてはあなたの世界の中にあると感じていいのです。

心はいつも自由に、世界の豊かさを受け取っていきましょう。

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